相続税専門税理士の富山です。
今回は、祖父から孫への非上場株式の売買価額が問題となった裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(F0-3-902)(一部抜粋加工)
令05-07-24裁決
安く買うと贈与税がかかる
今回の事案は、祖父が保有していた非上場株式を孫が買い取った際の売買価額の妥当性が争点となったものです。
請求人らは、会社の直前期末の各資産・各負債を基に株価を計算し、1株当たり64,528円で売買したとしていました。
これに対し、税務署側は、その金額は安すぎるとして、直後期末の各資産・各負債の金額を基に、より高い価額で評価し直し、時価との差額について贈与税を課税しました。
本件は、審査請求人■■■■(以下「■■■■■」という。)及び審査請求人■■■■(以下「■■■■」といい、■■■■■と併せて「請求人ら」という。)が売買により取得した取引相場のない株式について、原処分庁が、当該株式の売買価額はその時価よりも著しく低額であり、相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、当該株式の時価と売買価額との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなして贈与税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、原処分庁が当該株式の時価の算定の基礎とした評価時点などに誤りがあり、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には当たらず、また、当該各更正処分等の理由の提示に不備があるなどとして、その処分の全部の取消しを求めた事案である。
つまり、納税者側は「直前期末法による計算は問題ない」と考え、税務署側は「その計算では時価を正しく反映していない」と考えたわけです。
そして審判所は、結論として、納税者側の株価も低すぎるが、税務署側の株価も高すぎる、としました。
なぜ直前期末法が使えても納税者側は負けたのか?
この裁決の面白いところは、審判所が「直前期末法そのものは使える」と認めた点です。
税務署側は、直前期末から課税時期までの間に資産・負債の著しい増減があるとして、直前期末法を否定し、直後期末ベースの評価を採用していました。
しかし審判所は、著しい増減があるかどうかは、直前期末時点の資産・負債をきちんと補正した上で判断すべきであり、その段階では直前期末日後に確定した配当金を考慮すべきではないと整理しました。
その上で、会社の既存の貸借対照表をそのまま信じるのではなく、損害賠償請求権、簿外資産等、未払法人税等を加味して見直しています。
そして、直前期末法による最終的な1株当たり純資産価額は241,762円とされました。
納税者側が前提にした1株64,528円とは大きな開きがあります。
その結果、売買価額16,132,000円は、時価60,440,500円を大きく下回るとして、差額44,308,500円が相続税法7条のみなし贈与に当たると判断されました。
株式評価上の使いどころと注意点
この裁決は、相続税や事業承継の場面で、親族間の非上場株式売買を検討するときに非常に参考になります。
特に使いどころがあるのは、「課税時期に仮決算をしていないが、直前期末法で進められないか」を検討する場面です。
このとき、単に直前期末の決算書を見て終わりにするのではなく、その決算書に表れていない資産や負債がないかを必ず点検する必要があります(本件で問題になったのは、損害賠償請求権や簿外資産等でした)。
また、親族間売買では、「当事者がこの値段で合意したから大丈夫」という発想は危険です。
相続税法7条の世界では、当事者の納得よりも、客観的な時価との開差が重視されるからです。
さらに、税務署側の評価がそのまま通るとは限らない点も見逃せません。
本件では、税務署側が採った直後期末ベースの1株278,200円も否定されました。
つまり、納税者側も税務署側も、株価算定の前提整理を誤れば修正され得るということです。
株価評価を行う前に、まず「課税時期はいつか」「直前期末法の可否はどうか」「直前期末数値に補正すべき簿外項目はないか」という順番で検討するのが大切です。
そして、売買価額を決める前に、その根拠資料を丁寧に残しておくことが重要です。
非上場株式の親族間売買は、一見すると自由に価格を決められそうに見えますが、実際にはそうではありません。
後から多額のみなし贈与課税につながることもあります。
相続や事業承継の一環で自社株を移転する場合には、単に評価明細書を埋めるだけでは足りず、その前提となる会社の資産・負債の実態をどこまで洗い出せているかが、結果を大きく左右するといえるでしょう。
想う相続税理士
