相続税専門税理士の富山です。
今回は、相当地代通達の適用是非(地域要件)と修繕した土蔵の相続税評価が争われた判決事例について、お話します。
出典:TAINS(Z262-12119)(一部抜粋加工)
平成24年12月20日判決
法人へ賃貸していた土地と修繕した土蔵の評価
本件は、被相続人(亡くなった方)が所有していた複数の土地と土蔵について、相続税評価の方法が争いになった事案です。
土地は、生前に被相続人から法人へ賃貸されていました。
賃貸借契約の締結にあたり、権利金などの一時金は授受されていませんでした。
その一方で、建物敷地部分の地代は「相続税評価額×年6%」を基準として設定されていました。
このような形は、いわゆる「相当の地代」の考え方と近い場面が出てきます。
そこで争点になったのが、「相当地代通達」を適用して貸宅地を評価するのか、それとも財産評価基本通達「25 貸宅地の評価」が適用されるのか、という点です。
さらに、同じ土地の中でも、建物敷地部分と駐車場部分で利用状況が異なっていました。
駐車場部分を宅地として一体評価するのか、雑種地として評価するのか、という点も問題になりました。
加えて、土蔵についても争いがありました。
過去に移設や修繕工事がされていたのに、固定資産税評価額が極めて低額のままになっていたため、相続税評価が固定資産税評価額どおりでよいのか、それとも別途の調整が必要なのかが争点になりました。
相当地代通達が適用される前提とは?
まず裁判所は、相当地代通達の前提となる「通常権利金授受の取引慣行のある地域」に当たるかどうかを、周辺の社会的実態から判断しています。
借地権割合が複数年にわたり設定されていたこと。
周辺で権利金を授受した事例が存在したこと。
無償返還届出書の提出事例が複数あったこと。
そして、賃借人側が借地権を資産計上しないよう、相当の地代を超える地代設定をしていた事情なども踏まえ、地域要件を満たす方向で認定しました。
その上で、権利金その他の一時金が授受されていない本件では、建物敷地部分について相当地代通達を適用するのが相当とされました。
一方、駐車場部分については、賃貸借契約上も地代算定が分けられていたこと、面積や利用状況から見て「雑種地」として評価通達を適用するのが相当とされました。
また、相当地代通達が租税法律主義(課税要件明確主義)に反する、という主張については、土地賃貸借の経済実態が多様であることを前提に、不確定概念を用いることにも必要性と合理性があるとし、行政庁の恣意を許すものではない、と整理した上で退けています。
その固定資産税評価額は過去の修繕を反映したもの?
土蔵については、固定資産税評価額が修繕による価値上昇を反映していないと認定した上で、財産評価基本通達に明文がない場合として財産評価基本通達(第1章 総則)5「評価方法の定めのない財産の評価」を使い、財産評価基本通達(第4章 構築物)97「評価の方式」を準用する方法を合理的としました。
その結果、修繕費用相当部分を一定の減価償却後、残額の70%相当額で評価し、固定資産税評価額に加算する形で評価しています。
想う相続税理士
また、建物については固定資産税評価額がそのまま使えない場合がありますので、ご注意を。
