【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

老朽アパートは価値ゼロと言える?相続税申告で通達評価を外すハードルとは?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続で取得した不動産を売却し、その売却価格を「時価」として申告したところ、税務署から評価通達で更正され、「通達評価を外す特別の事情があるのか?」が争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-774)(一部抜粋加工)
令03-04-26裁決


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実際に売れた金額は客観的交換価値(時価)?

相続税は、相続開始時点の「時価」で財産を評価します。

ただ、不動産の「時価」は一義的に決まるわけではなく、評価がブレやすい財産です。

そこで実務では、原則として財産評価基本通達(評価通達)に従って、宅地は路線価方式、家屋は固定資産税評価額等で評価します。

本件の納税者(請求人)は、相続で取得した土地建物を、相続後に売却しています。

そして、「実際に売れた価格こそが客観的交換価値(時価)だ」と考えて、その売却価格をベースに相続税申告をしました。

これに対し税務署は、「原則どおり評価通達で評価すべきで、売却価格で評価するのは認められない」として更正処分を行いました。

争点はシンプルで、評価通達どおりに評価すると不動産の評価額が売却価格や調査価格より高くなるとしても、それだけで「評価通達で時価を適切に算定できない『特別の事情』」があると言えるのか、という点でした。

結論は、特別の事情は認められず、税務署の更正は適法とされました。

建物を解体しないと土地が売れないのなら建物は無価値?

納税者側の感覚としては、「古い賃貸物件で、採算も合わない。入居者を立ち退かせて解体しないと売れない。だから建物に資産価値はない(むしろ費用がかかる)。」という発想になりやすいです。

さらに、実際に売却した価格や、依頼した調査報告書の価格が、評価通達で出る金額より低ければ、「通達評価は実態と合っていないのでは?」と思うのも自然です。

本件でも、建物は築年数が相当経過した店舗・共同住宅で、空室も多く、買主は購入後に最終的に建物を取り壊しています。

そのため納税者は、売却価格は適正な時価を反映している、また調査報告書(収益還元法・DCF法)でも低い価格になっており、通達評価との乖離は著しい、という方向で主張しました。

ただし、この種の主張は、言い換えると「通達評価を外したい」という主張です。

通達評価を外すには、単に「安く売れた」「古い」「取り壊した」だけでは足りず、相続開始時点の現況に照らして、通達評価で時価を算定できないほどの「特別の事情」が必要になります。

このハードルが想像以上に高い、というのが本件の核心です。

審判所はどう「特別の事情」を否定する?

審判所はまず、評価通達の考え方を丁寧に整理しています。

評価通達は、税負担の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という観点から合理性があり、原則としてその評価額が「時価」と推認される、という枠組みです。

そして、その推認を覆すには「特別の事情」が必要だ、という立て付けを明確にしました。

その上で、納税者が挙げた事情を個別に検討し、いずれも特別の事情に当たらない、と判断しています。

ポイントは大きく3つです。

第一に、建物の老朽化についてです。

雨漏り等の不具合があり、売却後に解体されたとしても、相続開始時点で主要構造部が健全で、入居者もおり、直ちに「資産価値なし」とは言えない、と整理されました。

第二に、売却価格についてです。

本件では、立退交渉ができる不動産業者に絞った入札で、瑕疵担保責任免責、境界明示なし、入居者付き現状渡しなど、一定の条件が付された取引でした。

そのため、売却価格がそのまま客観的交換価値(時価)とまでは言い難い、という結論になります。

第三に、調査報告書の価格についてです。

建物が既に取り壊された後に作成され、実地確認が十分でないこと、収益価格のみで算定して試算価格の調整がないこと、割引率の根拠が明確でないことなどが指摘され、調査価格をもって直ちに時価とは言えない方向で評価されています。

最後に、「通達評価額と売却価格等が大きく乖離している」点についても、乖離があるだけでは特別の事情を推認させない、と判断しています。

「評価基準が異なれば価格が異なることは起こり得る」という考え方です。

想う相続税理士

相続不動産が「安く売れた」「古いから解体した」という事情があっても、それだけで相続税評価を売却価格に寄せられるとは限りません。

通達評価を外すには、相続開始時点の現況に照らして、通達評価では時価を適切に算定できないと言えるだけの客観資料が求められますので、ご注意を。