相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続が発生した年分の贈与に係る相続時精算課税の選択について、お話します。
想う相続税理士秘書

相続時精算課税を選択するかどうかを選択する
贈与を受け、その贈与について「相続時精算課税制度」を利用しようとしていたところ、贈与者が贈与の年に亡くなってしまった場合には、「将来の相続を見据えて(というか、将来の相続なんてどうなるか分からないから、こうなるだろうという予想の元に)相続時精算課税を選択する」ということに決めて贈与をしたので、それに従って相続時精算課税を選択する、というのではなく、その贈与について相続時精算課税を選択しようとしていたものの、「既に相続が発生しているので相続時精算課税を選んだ方が(予想なんかじゃなく)実際にいいのかどうかを判断して選択するかどうかを決められる」ということになります。
相続時精算課税を選択しようとしていたものの、選択しない方がいい、ということになれば、選択しないことができる訳です。
相続により財産を取得しない方がいいと思った場合
長男Aさんは、父Bさんから、毎年、暦年課税贈与により、100万円の贈与を受けていたとします。
暦年課税に係る基礎控除額110万円以下ですから、贈与税はかかりません。
Aさんが、令和5年度税制改正により、令和6年分以後の贈与から、相続時精算課税に係る基礎控除額(110万円)が暦年課税に係る基礎控除額(110万円)とは別に新設され、贈与者(特定贈与者)の相続において財産を取得した場合に、暦年課税贈与だと3年以内の贈与財産が「基礎控除額以内でも」生前贈与加算により相続税の課税対象になってしまうけれども、相続時精算課税だと「基礎控除額以内なら」相続税の課税対象にならない、ということを知って、令和7年分の100万円の贈与から、相続時精算課税を選択しようとしていたとします。
しかし、令和7年中に、父Bさんが亡くなってしまった、とします。
この場合、父Bさんの相続により財産を取得するのであれば、令和7年分の贈与については、相続時精算課税を選択した方が有利です。
令和7年分の贈与が基礎控除額の適用により、相続税の課税対象にならないからです。
暦年課税贈与だと、相続税の課税対象になってしまいます。
しかし、相続により財産を取得すると、令和6年分以前の生前贈与加算の対象となる贈与が相続税の申告において他の相続人にバレてしまう、そういうことにうるさい相続人(長女Cさん)がいて面倒くさい、長女Cさんにグチグチ言われるぐらいなら相続しない方がいい、とか、多額の借金があったため、相続の放棄をすることにした、というような場合には、暦年課税贈与のままの方が有利です。
暦年課税であれば、令和6年分以前の暦年課税贈与もそのまま贈与税非課税で(相続税の課税対象とならず)、令和7年分贈与も暦年課税贈与で贈与税非課税(相続税の課税対象とならない)ということになります。
相続時精算課税だと、令和7年分の贈与については、基礎控除額の適用により贈与税も相続税も非課税になりますが、令和6年分以前の生前贈与加算の対象となる贈与が相続税の課税対象となり、相続税の申告をすることになれば、他の相続人にその贈与がバレます。
相続放棄をしても、相続時精算課税を選択したことで、生前贈与加算が発生し、相続税の申告義務が発生すれば、その相続時精算課税が基礎控除額以内で非課税だったとしても、相続税の申告をすることになります。
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
概要
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与(「相続等」といいます。)によって財産を取得した人が、被相続人から加算対象期間に暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときは、その人の相続税の課税価格にその財産の贈与時の価額を加算します。
想う相続税理士
相続時精算課税に係る基礎控除額110万円を超えても、相続時精算課税に係る特別控除額2,500万円が適用できるため、贈与税は非課税、というシナリオです。
相続時精算課税選択届出書の提出期限は、令和8年3月15日です。
長男Aさんが、上記の「長女Cさんにグチグチ言われるぐらいなら相続しない方がいい」との判断により、相続時精算課税選択届出書を令和8年3月15日までに提出しなかったとします。
この場合、相続時精算課税を選択しない訳ですから(暦年課税になります)、「相続時精算課税に係る基礎控除額110万円を超えても、相続時精算課税に係る特別控除額2,500万円が適用できるため、贈与税は非課税」のシナリオは崩れ、暦年課税に係る基礎控除額110万円を超える部分に贈与税が課税されるため、令和8年3月15日までに贈与税の申告・納税をする必要があります。
長男Aさんが、ちゃんとその贈与税の期限内申告・納税をしたとします。
ところが、令和8年3月20になって、長女Cさんも生前贈与を受けていて、自分がグチグチ言われる可能性がないことが分かったとします。
そこで、やっぱり父Bさんの財産を相続することにしたとします。
この場合、令和7年分の贈与については、相続時精算課税選択届出書の提出期限は過ぎているため、相続時精算課税は選択できません。
問題なのは、贈与税の期限内申告です。
相続開始年分(令和7年分)の贈与については、贈与税の申告は不要です。
しかし、既に申告を済ませて納税までしまっています。
このような場合には、更正の請求で贈与税の還付を受けることになるものと思われます。