相続税専門税理士の富山です。
今回は、会計検査院の令和5年度の決算検査報告において指摘された非上場株式(取引相場のない株式)の評価の問題点について、お話します。
会計検査院HP・令和5年度決算検査報告(最新)(一部抜粋加工)
原則的評価方式に対する指摘
国税庁HP・タックスアンサー(一部抜粋加工)
No.4638 取引相場のない株式の評価
概要
取引相場のない株式(「上場株式」および「気配相場等のある株式」以外の株式をいいます。)は、相続や贈与などで株式を取得した株主が、その株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により、それぞれ原則的評価方式または特例的な評価方式である配当還元方式により評価します。
上記にあるとおり、非上場株式(一般の評価会社の株式)の評価方式は、「原則的評価方式」と「特例的評価方式(配当還元方式)」に分かれます。
まず、「原則的評価方式」に対する会計検査院の指摘を見ていきます。
1.原則的評価方式による評価の状況
・類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準価額は、純資産価額に比べて相当程度低い水準
→計算式に類似業種比準価額が用いられている類似業種比準方式(①)及び併用方式(③)による各評価額は、純資産価額方式(②) による評価額に比べて相当程度低く算定され、各評価方式の間で1株当たりの評価額に相当のかい離が生じている状況

上記の記事にもあるとおり、「類似業種比準方式」は、評価しようとする非上場株式の発行会社と事業内容が類似する業種目に属する複数の上場会社の株式の株価の平均値をベースに計算します。
とはいえ、非上場株式を、上場株式の株価をベースに評価する訳ですから、評価額が高く計算されてしまう可能性があります。
評価の安全性の観点から、その辺りを考慮した計算体系となっているため、評価額が安くなる傾向にあることは否めませんが、それが「『相当程度』低い」とされています。
会社の規模が大きければ大きいほど、上場会社に近くなる、ということで、最終的な評価額に占める類似業種比準方式による評価額(「『相当程度』低い」評価額)の割合が高くなっていきます。
つまり、大きな会社の方が評価額が安くなる傾向にある、ということです。
それは、会社の規模別の純資産価額方式の採用率においても顕著になっていると指摘しています。
・純資産価額に対する申告評価額の割合の分布状況をみると、その中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍
→評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向類似業種比準価額は純資産価額に比べて相当程度低く算定される傾向がある中で、大会社が選択可能な類似業種比準方式では類似業種比準価額がそのまま評価額となるのに対して、中会社及び小会社が選択可能な併用方式では類似業種比準価額を考慮する割合(「L」の値)が中会社ではその規模が大きい順に0.9、0.75、0.6、小会社では0.5となっていて、その残りの割合は純資産価額を適用することになっているためである。このため、評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向にある
想う相続税理士秘書
特例的評価方式に対する指摘
次に、「特例的評価方式」に対する会計検査院の指摘を見ていきます。
配当還元方式の還元率(10%)は、昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考にするなどして設定
→その後、我が国の金利水準が長期的に低下してきている中、見直されていない
「特例的評価方式」は「配当還元方式」によることとなりますが、この配当還元方式は、
還元率を10%に設定していることについて、国税庁は、昭和39年の評価通達制定当時の金利等を参考とし、評価の安全性を図ることも考慮して設定したものであるとしている。
そこで、金利等の状況について、評価通達が制定された39年以降の長期国債の流通利回り及び応募者利回りの推移をみたところ、図表13のとおり、40年代及び50年代は約6%から約10%までの間で推移し、その後、長期的に低下して、平成10年以降はほぼ2%以下で推移していた。
しかし、我が国の金利の水準が長期的に低下してきている中、還元率は、評価通達の制定以降、見直されていない。
→還元率が社会経済の変化に応じたものとなっておらず、近年の金利の水準と比べて相対的に高い率となっているおそれ
10%の還元率に基づいて算定される評価額は、通達制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがあると思料
1株当たりの資本金等の額:50円
100円/10%×50円/50円=1,000円
となります。
還元率を、仮に上記の「平成10年以降はほぼ『2%』以下」の「2%」で計算すると、
100円/2%×50円/50円=5,000円
となります。
上記の数字は概算ですが、本来5,000円となるものが、1,000円で計算されている、つまり、還元率が、非上場株式の評価額が安く計算される状態に据え置かれている、という指摘です。
想う相続税理士