【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

配偶者が介護付有料老人ホームに入居する際の入居金を負担したら贈与になる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、配偶者が介護付有料老人ホームに入居する際の入居金の負担に係る税務上の取扱いについて争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J81-4-11)(一部抜粋加工)
平22-11-19裁決


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配偶者の入居金を負担したら贈与?貸付け(金銭債権)?

亡くなった方が、配偶者の介護付有料老人ホームへの入居に際し入居金を負担した事例です。

税務上の焦点は2つありました。

第一に、その入居金相当額の負担が「扶養義務者相互間の生活費の非課税贈与」として扱えるかどうかです。

第二に、入居一時金の未償却返還金相当額については、亡くなった方に「配偶者に対する金銭債権」が残り、それが相続財産に算入されるのかという点です。

原処分側は、一時金の定額償却部分は家賃等の前払的性質があるとして、未充当部分の返還相当額は被相続人の配偶者に対する金銭債権に当たると主張しました。

他方、納税者側は、入居金の負担は扶養義務の履行であり、贈与や債権の発生は認められないと争いました。

非課税の根拠はどこに書いてある?

納税者側の各主張の根拠は、次の条文です。

相続税法(一部抜粋)
第21条の3 贈与税の非課税財産
次に掲げる財産の価額は、贈与税の課税価格に算入しない。
二 扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの

所得税法(一部抜粋)
第9条 非課税所得
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十五 扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品

審判所の判断は「通常必要な生活費の贈与」

審判所は、まず入居金支出の性質を具体的事情から丁寧に認定しました。

配偶者は高齢で要介護状態にあり、自宅介護の継続が困難であったこと。

入居にあたり一時金の一括支払いが不可欠で、配偶者自身には支払資力がなかったこと。

施設も華美ではなく、介護生活のための必要最小限度の水準であったこと。

これらを前提に、亡くなった方が入居金を負担し、返済を求めない合意があったと認めました。

そのうえで、当該入居金相当額の金銭は、「扶養義務者相互間において生活費に充てるためにした贈与」であり、社会通念上「通常必要と認められる範囲」に該当すると判断しました。

したがって、この贈与は相続税法に規定する非課税財産に該当し、相続開始前3年以内の贈与であっても、生前贈与加算の対象にはならないと結論付けました。

判断の要点は、抽象的な「生活費」概念ではなく、本人の要介護度、支払資力、施設水準、支払いの不可避性など個別事情を総合評価している点にあります。

返還金相当額の「債権」性と一時金の前払性の否定

もう一つの争点は、入居一時金の未償却分(返還金相当額)について、亡くなった方から配偶者への金銭債権が相続財産として残るのかという点でした。

原処分側は、定額償却部分を家賃等の前払とみて、未充当分は返還の対象だから債権が残ると主張しました。

これに対し審判所は、入居金は終身にわたり一定の役務提供(居住と介護サービス)を受け得る地位の対価であって、単純な家賃の前払とは異質だと指摘しました。

そのため、未償却分があるからといって、直ちに亡くなった方に配偶者への金銭債権が帰属するとは言えないと判断しました。

想う相続税理士

この裁決の結論のみを捉えて、介護付有料老人ホームの入居金の負担は課税されない、と単純に結論付けるのは誤りです。

「介護を必要とする配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められるもの」に該当するかを、「自宅での介護が難しくなったので必要に迫られて入居した」「配偶者に支払能力がなかった」「配偶者の介護生活を行うための必要最小限度のものであった」等の論点から確認しましょう。