【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

有料老人ホームの入居一時金の返還金請求権をみなし贈与により取得したものとした事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、有料老人ホームの入居一時金に係る返還金の税務上の取扱いが争点となった裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(J90-4-10)(一部抜粋加工)
平25-02-12公表裁決


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入居一時金の返還金は誰の財産?

亡くなった方は、有料老人ホームと入居契約を締結し、入居一時金を支払いました。

契約では、返還金受取人として「入居者本人、入居者死亡時は甥」が指定されていました。

相続発生後、有料老人ホーム側は契約条項に従い、入居一時金の未償却相当額(清算後の返還金)を甥名義の口座へ振り込みました。

税務上の争点は大きく2つです。

第一に、この返還金は無くなった方の相続財産とすべきか、第二に、相続財産でないとしても、受け取った甥には「経済的利益の享受」があったのではないか、という点です。

審判所は、入居契約の「返還金受取人」条項の意味を丁寧に読み解き、返還金を請求する権利者は相続人一般ではなく、契約で指定された受取人であると評価しました。

したがって、返還金自体は亡くなった方の相続財産とはいえない、と結論づけています。

ここまで読むと、「では甥の手取りは非課税なのか?」と思われるかもしれません。

しかし、結論はもう一段階あります。

相続税法第9条の「みなし贈与」適用

相続税法第9条は、形式的には贈与契約が成立していなくても、実質的に無償で経済的利益を受けた場合には、その利益相当額を贈与により取得したものとみなす規定です。

本件では、入居一時金の原資は亡くなった方の預金でした。

相続発生により契約が終了し、返還金を受け取るのは甥(返還金受取人)です。

甥は対価を支払わずに、亡くなった方の負担で形成された返還金請求権相当額の利益を受けています。

裁決はここに「経済的利益の享受」を認定し、相続税法第9条が適用されるとしました。

実質的にみて、請求人の弟は、第三者(請求人の弟)のためにする契約を含む入居契約により、相続開始時に、被相続人に対価を支払うことなく、同人から入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利に相当する金額の経済的利益を享受したというべきである。したがって、請求人の弟は、当該経済的利益を受けた時、すなわち、相続開始時における当該利益の価額に相当する金額を被相続人から贈与により取得したものとみなす(相続税法第9条)のが相当である。

さらに、甥(請求人から見た弟)は亡くなった方から相続により他の財産も取得していたため(甥は亡くなった方の姉の代襲相続人)、相続税法第19条により、この「みなし贈与」相当額は相続税の課税価格に加算される(生前贈与加算の対象)と判断しています。

つまり、返還金=被相続人の相続財産ではない。

しかし、受け取った者にはみなし贈与が成立し、その分が相続税の課税価格に加算される、という結論です。

想う相続税理士

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