相続税専門税理士の富山です。
今回は、亡くなった方が負担していた配偶者の有料老人ホームの入居金に係る税務上の取扱いが争点となった裁決事例について、お話します。
出典:TAINS(J83-4-20)(一部抜粋加工)
平23-06-10公表裁決
有料老人ホームの入居にかかる費用の負担は非課税?
亡くなった方(夫)が、亡くなる約2ヶ月半前、妻名義の有料老人ホーム入居契約に係る入居金の相当部分を資金拠出しました。
原処分庁は、「主契約者は妻であり、夫が自らの支払義務のない入居金を負担したのは妻への経済的利益の移転(相続税法9条の「みなし贈与」)に当たる。相続開始前3年以内の贈与として加算すべき」としました。
審判所は、契約当事者の地位(主契約者は妻)、支払義務者、施設利用権の所在、請求書の宛名・実際の支払などの事実関係を総合し、妻が安い出費で施設利用権相当の経済的利益を受けたと判断。
そして、その利益は「生活費等の非課税贈与」には該当せず、相続開始前3年以内の贈与として相続税の課税対象になる、と結論づけました。
この裁決のポイントは2つです。
第一に、入居契約の主契約者と施設利用権の帰属。
第二に、当該入居金が社会通念上「日常生活に必要な費用(生活費)」と言えるか、という実質判断です。
生活費等の非課税贈与が否認された理由
裁決は、抽象的に「住の費用だから生活費」とは扱いませんでした。
重視されたのは、
- 入居金の絶対額が極めて高額であったこと
- 広い居室やプール・フィットネス等の共用施設など施設の性質が高付加価値であったこと
- 妻は介護を要する状態ではなく、介護付ホームでもなかったこと
これらの事情から、当該入居金は「通常の日常生活を営むのに必要な費用」を超えており、相続税法21条の3に規定する非課税贈与には該当しない、と判断されました。
また、入居契約の構造面でも、「主契約者の死亡は契約終了事由」「追加契約者は解除権を持たず、主契約者に劣後する地位」「入居金の支払義務は主契約者に限定」などの条項がありました。
このため、夫(追加契約者)が負担した資金は、自らの債務の履行ではなく、主契約者である妻の施設利用権取得を助けた「実質的利益移転」と評価されました。
結果として、妻が受けた経済的利益は相続税法9条の「みなし贈与」に該当し、相続開始前3年以内の生前贈与加算(相続税法19条1項)の対象とされました。
裁決事例から読み取るチェックポイント
次の点に注意しましょう。
入居契約・支払設計の確認
主契約者は誰か、入居金の支払義務者は誰か、請求書の宛名は誰かをまず確認します。
主契約者が妻であるのに夫が高額入居金を肩代わりすると、「安い対価で施設利用権相当の利益を享受」したとして、みなし贈与認定のリスクが高まります。
「生活費」該当性の評価材料
金額水準、施設の性質(高付加価値・豪華性)、要介護性の有無など、社会通念による「通常性」を裏づける事実を丁寧に整えます。
単に「住居に関する支出=生活費」ではなく、具体的事情の総合評価となることに留意すべきです。
想う相続税理士