相続税専門税理士の富山です。
今回は、遺産分割協議で取り決めた「代償分割金の支払い」や「親の介護」といった負担が守られなかった場合に、どのような法的・実務的な対応が考えられるのかについて、お話します。
想定されるトラブルのパターンと取り得る手段
たとえば、相続人間で遺産分割協議を行い、「先祖代々の家屋敷は長男に承継させる。その代わりに、長男は二男へ代償分割金を支払う。さらに、母の生活の世話を継続する」という内容で合意して家屋敷の相続登記を済ませたのに、長男が二男に代償分割金を支払わず、母の介護も放置、というようなことになったらどうしたらよいのでしょうか?
このとき、最初に検討されるのは「履行請求」です。
すなわち、合意どおりの支払い・介護費用相当の給付を求める、履行が遅れたことによる遅延損害金を請求する、といった方法です。
介護放棄により発生した損害賠償を合わせて主張することも考えられます。
このようなことを避けるためには、例えば、代償分割金の支払期限や支払方法を明確にしておいたり、もし、支払いが遅れた場合のペナルティを決めておく、という手もありますし、場合によっては、家屋敷に抵当権を設定する、という手も考えられます。
分割そのものを解消できる?
守られない約束なら、その約束はなかったことにすることはできるのでしょうか?
ここは考え方が分かれます。
遺産分割は、本来「共有の遺産を最終的に分ける手続き」です。
合意が成立すると、持分関係は清算され、あとは「誰が、誰に、いくら支払うか」という「債権債務の問題」が残るだけ、という考え方がまずあります。
この整理に立てば、負担の不履行=直ちに分割の解消とはなりません。
理由は大きく2つあります。
それは、第一に、遺産分割の目的(遺産共有の解消)は合意時点で達成されており、「その後の不履行」は別問題と見ることができる、第二に、いったん確定した分割の効力を容易に否定できると、法的安定性が損なわれてしまう、ということです。
また、守られない約束を認めるのはオカシイ、という考え方もあります。
「相続人間」ということは、「親族間」です。
その親族間で遅延損害金や損害賠償を請求する、相手の相続した財産に抵当権を設定する、というようなことはできるのか?、「親の介護」が約束どおりにちゃんとできない相手にやらせることが現実的にできるのか?という問題がある、ということです。
トラブルを避ける条項設計を検討する
遺産分割協議の内容が、無理な内容になっていないか、改めて現実的な目で確認しましょう。
遺産分割協議により、自分が代償分割金をたくさんもらえることになったとしても、相手にその支払能力がなければ不可能です。
「親の介護」も、どこまでやれば達成なのかが分かりづらければ、介護費用を毎月いくら負担する、というような内容に変更するというようなことも検討しましょう。
想う相続税理士
弁護士の先生のお知恵をお借りすることも検討しましょう。