相続税専門税理士の富山です。
今回は、相続税対策における税制改正をフォローすることの重要性について、お話します。
なぜ相続税対策に「税制改正」が関係してくるのか?
相続税対策は、一度方向性を決めてしまえば、そのまま将来まで通用すると思ってしまいがちです。
ところが、税金の世界には「税制改正」というものがあります。
毎年のように、法人税や所得税、相続税などのルールが少しずつ変更されており、時には相続税対策の有利・不利がガラッと変わるような改正も行われます。
つまり、ある時点では「これが一番節税になる」「リスクが少ない」と言われていた方法が、数年後には同じようには通用しなくなっている、ということが起こり得ます。
我々税理士は、仕事柄、毎年の税制改正をチェックする訳ですが、一方で、一般の方が、日々の仕事や家事などをこなしながら、税制改正の細かい内容を追いかけるのは、現実問題としてなかなか難しいと思います。
しかし、相続税対策は、今日やって明日結果が出るものではなく、「将来の相続のその時」に初めて答え合わせがされる「長期戦の対策」です。
この「時間が長い」という性質のために、その間に税制改正が入るリスクがどうしても大きくなってしまうのです。
ですから、相続税対策を考える場合には、「今のルール」だけを見るのではなく、「将来、ルールが変わるかもしれない」という前提を、頭の片すみに置いておくことがとても大切です。
一般の人でもできる税制改正のフォローの方法
「税制改正にキャッチアップしなければならない」と言われると、「毎年、専門書を読み込まないといけないのか?」と身構えてしまう方もいらっしゃると思います。
ただ、一般の方にとって大事なのは、細かい条文や通達の内容を押さえることではなく、まず「自分の知っている税金のルールは、将来変わることがある」という事実を知っておくことです。
その上で、すべてを自分で追いかけようとするのではなく、最低限の情報の取り方を決めておくと安心です。
例えば、相続や税金に関するニュースや解説が分かりやすく紹介されている記事や動画を、時間のあるときに少しずつ見る。
信頼できる専門家や、公的な機関が発信している情報に目を通してみる。
最近は、インターネットや動画配信サービスなどで、専門家が分かりやすく解説しているコンテンツも増えていますので、「全部理解しよう」と気負わずに、「何となく雰囲気だけでもつかんでおく」ぐらいの気持ちで触れてみるのも一つの方法です。
そして何より大切なのは、「重要な判断をする前には、必ず最新のルールを確認する」という習慣を持つことです。
具体的には、大きな額の生前贈与をしようとする時、相続税対策の提案を受けた時、遺言書の内容を固める時などです。
そのようなタイミングで、「これは本当に今の税制でも有利なのか(いつの間にか税制が変わっていないか)?」「数年前の知識だけで判断していないか?」と意識して確認していただきたいのです。
ご自身で調べても不安が残る場合には、相続税に詳しい税理士に一度相談してみることで、「今のルールに合った対策になっているか」を確認することができます。
すべてを自力で追いかけるのではなく、「情報の更新が必要な場面で、専門家をうまく使う」というイメージを持っていただくと、負担も少なく、かつ安心感も得られます。
相続発生まで気を抜かないための「見直し」と専門家の活用
相続税対策は、一度やって終わり、というものではありません。
相続が実際に発生するその日まで、税制改正やご家族の状況の変化によって、必要な対策が変わってくることがあります。
今は有利に働く対策でも、将来のある時点で不利なものに変わってしまったり、想定していなかった税金がかかる可能性が出てきたりすることもあり得ます。
ですから、「このやり方で進めていけば大丈夫」と完全に気を抜いてしまうのではなく、「数年に一度は、対策の棚卸しと見直しをする」という意識を持っていただきたいと思います。
そのときに、必ずしも大がかりな見直しをする必要はありません。
「大きな方向性は合っているか」「最新の税制でも問題ないか」「ご家族の状況の変化に合った内容になっているか」を確認するイメージです。
もし、既に何らかの相続税対策を始めているものの、「このやり方で続けてよいのか不安」「結構前に聞いた話のままなので心配」というお気持ちがあるようでしたら、それはまさに見直しのサインかもしれません。
相続税対策は、「早く始めること」と同じくらい「途中で放置しないこと」が大切です。
税制改正大綱が発表される年末になるたびに緊張する必要はありませんが、「今の自分の対策が、現時点のルールに合っているかどうか」を、ときどき確認しながら進めていくことが、結果としてご家族を守ることにつながります。
想う相続税理士
本やインターネットで一度勉強しただけで安心してしまうのではなく、「情報は古くなる」「大きな判断の前には最新のルールを確認する」という感覚を持っていただくだけでも、失敗リスクはぐっと下がります。
ご自身で税制改正のすべてを追いかける必要はありませんが、「相続が発生するまで気を抜かない」「ときどき専門家と一緒に点検する」という意識を持って、安心できる相続税対策を進めていただければと思います。
