【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

妻名義の有価証券は本当に妻の財産?相続税で「名義と実質」が争われた判決事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、亡くなった方の妻名義の有価証券が相続財産に含まれるかどうかについて争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z268-13148)(一部抜粋加工)
平成30年4月24日判決


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妻名義でも安心できない?争いになった背景

この事案では、お父様(被相続人)が亡くなり、その妻名義で保有されていた有価証券や配当期待権(以下、「妻名義有価証券等」)を、どこまで相続財産に含めるかが争われました。

当初申告では、妻名義有価証券等の40%を相続財産に含め、その後の修正申告では45%を相続財産に含める内容で申告しています。

一方、税務署側は、妻名義有価証券等の「全部」が被相続人の資産を原資として形成されたものだとして、更正処分を行いました。

つまり、「45%だけが相続財産か、それとも100%が相続財産か」という点で真っ向から対立した訳です。

納税者側は、「妻名義有価証券等の一部は、自分(長女)の青色事業専従者給与を原資として購入したものであり、その部分は自分に帰属するから相続財産に含まれない」と主張しました。

これに対して裁判所は、次のように判断しています。

本件丙名義有価証券等のうち本件係争部分は、亡乙の原告に対する給与を原資として形成されたものではなく、亡乙の資産を原資として形成されたものと認められるから、これを相続財産に含まれるものとしてされた更正処分等は適法であり、原告の請求は棄却すべきものと判断する。

結果として、妻名義有価証券等の全額が被相続人の相続財産に含まれると認定されました。

名義上は「妻の財産」であっても、実質が「夫の資産」であれば相続税の対象になるという点が、改めて確認された事例と言えます。

裁判所が重視した「お金の出どころ」と「管理の実態」

この判決で裁判所は、形式的な名義ではなく、「誰のお金で買ったのか」「誰が管理・運用していたのか」といった実質面を非常に丁寧に見ています。

まず、裁判所は、相続税の課税対象となる財産の帰属について、次のような一般論を示しました。

相続税の課税物件である財産の法律上の帰属については、当該財産の名義によるのみでなく、その実質に即した認定判断をすべきものであり、とりわけ、親族間においては、例えば夫が妻や子の名義を借りて自らの資産を原資として有価証券取引に係る口座を開設し、当該口座で取引を行うこともまれではないといえることに照らすと、上記の認定判断に当たっては、当該財産の名義のほか、当該財産の取得(その購入の原資となった資産の取得を含む。以下同じ)が誰の出捐によるものか、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等の各事情を総合考慮して認定判断することが相当である。

そのうえで、具体的な事実関係として、次のような点が重視されています。

被相続人である父は、ご自分の収入を基に、一家の資産形成・運用を自ら主導していたこと
父、妻、長女、長男それぞれの名義で多数の預金口座・証券口座を開設し、名義をまたいで頻繁かつ多額の資金移動を行いながら、有価証券取引などの運用をしていたこと
妻名義の証券口座に流入した資金の大半が、父名義または父の資産と推認される長男名義の預金口座から移動してきた資金であったこと
一方で、長女名義の口座から妻名義の証券口座に流入した資金はほとんどなく、長女が受け取っていた給与やその運用益に見合う資産は、すでに長女名義の預金・保険・有価証券として形成されていたこと

裁判所は、こうした事実を積み重ねた上で、妻名義有価証券等の購入原資については「その全部が亡くなった方に帰属する」と推認できるとしました。

つまり、
名義人が誰か
だけでなく、
お金の出どころ(誰が実際に出資したのか)
誰のための財産として管理・運用されていたのか
といった点を総合的に見て、「実質的には亡くなった方の財産」と判断した訳です。

妻や子の名義にしている場合の相続税上の注意点

この事例は、相続実務で非常によく問題となる「名義と実質のズレ」を端的に示しています。

裁判所は、次のような事情を踏まえ、「妻名義でも中身は夫の財産」と判断しました。

これらに照らせば、本件丙名義有価証券等は、その全部が亡乙に帰属する(相続財産に含まれる)ものと認めるのが相当である。

ポイントを整理すると、次のようになります。

親族名義の預金や有価証券であっても、
*購入資金の大半が亡くなった方の口座から出ている
*亡くなった方が一貫して管理・運用している
*名義人本人の収入・資産状況から見て、その規模の資産を自力で形成するのは不自然
といった事情が揃うと、「名義預金」「名義株」と評価され、相続税の課税対象になる可能性が高くなります。

「専従者給与」や家族への給与を支払っている場合でも、その給与に見合う資産がすでに名義人側で十分形成されているときは、さらに別の名義で形成された大きな資産についてまで「自分の給与を原資として出した」と主張するのは難しい、ということも、この判決から読み取れます。

相続税対策のつもりで「配偶者や子供の名義で株式や投資信託を買っておく」というケースは少なくないかもしれませんが、相続の場面でまとめて「亡くなった方の財産」とみなされるリスクがあります。

特に、亡くなった方の事業収入を原資として、家族名義の口座を複数使いながら一体として運用しているような場合には、後から「ここまでは妻の財産」「ここからは子の財産」と線引きすることが非常に難しくなる点に注意が必要です。

想う相続税理士

亡くなった方の分だけではなく、ご家族みなさんの財産の全体像を確認しましょう。