【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

介護で親の家に泊まり込んでいたら同居親族として小規模宅地等の特例が適用できる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、小規模宅地等の特例と「生活の本拠」の判断について争われた裁決事例について、お話します。

出典:TAINS(F0-3-485)(一部抜粋加工)
平28-06-06裁決


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介護のため親のマンションに移り住んだ相続人の事案

今回ご紹介するのは、介護のために親のマンションに通っていた相続人が、そのマンションに住んでいたとして、小規模宅地等の特例の適用を主張したものの、「生活の本拠」がどこにあったのかが問題となった裁決事例です。

亡くなった方(「被相続人」)はマンション(以下「本件建物」)に一人暮らしをしており、要介護状態でした。

相続人である子供は、別のマンション(以下「A建物」)を所有していて、相続開始前の少なくとも約10年間はA建物で生活していました。

A建物は2LDKで、生活に必要な設備が整った、ごく一般的なファミリーマンションでした。

本件建物とA建物は徒歩圏内(約550メートル、徒歩7分程度)の距離にありました。

被相続人が介護を必要とするようになり、相続人は「介護のために本件建物で同居を始めた」と主張しました。

また、被相続人が亡くなった後も、「一周忌までは来客や電話が多かったので、本件建物で生活していた」と説明し、小規模宅地等の特例のうち、特定居住用宅地等の適用を受けられると考えて相続税申告を行いました。

ところが、税務署は「相続開始時から申告期限まで、本件建物に生活の本拠があったとは認められない」と判断し、小規模宅地等の特例の適用を否認して更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。

これに不服があった相続人が、裁決で争った、という流れです。

小規模宅地等の特例と「生活の本拠」の考え方

小規模宅地等の特例は、相続人が引き続き自宅や事業用の土地を使って生活していけるよう、一定の要件を満たした宅地等の相続税評価額を大きく減額して申告できる特例制度です。

この特例には、いろいろなパターンがあるのですが、被相続人の自宅土地を相続した親族について、ザックリ言うと次のような要件を満たせば、「特定居住用宅地等」に該当するものとして、特例の適用を受けることができます。

相続開始の直前に、その家に一緒に住んでいたこと
相続開始から相続税の申告期限まで、その家に住み続け、かつその宅地等を所有し続けていること

この「相続開始から申告期限まで、その家に居住している」という要件が、本件裁決の争点となりました。

裁決では、次のような趣旨の説明がされています。

措置法第69条の4第3項第2号イに規定する、相続開始時から申告期限まで引き続き被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住している者という要件を満たし、本件特例を適用し得るか否かについては、当該家屋を生活の基盤そのものとしていたといえるか、言い換えれば、当該家屋に生活の拠点を置いていたといえるか否かにより判断すべきであり、具体的には、その者の日常生活の状況、その建物への入居の目的、その建物の構造及び設備の状況並びに生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して判断すべきものと解される。

ポイントは、「住民票をどこに置いているか」「本人がどこに住んでいると言っているか」でなく、

日常生活をどこで送っていたのか
どの建物に生活の拠点を置いていたのか
他に住める家があるのか、その家の設備はどうか
といった事情を総合的に見て、「生活の本拠」がどこかを判断する、という考え方です。

電気・ガス・水道使用量から生活実態を見られた結果は?

この裁決では、相続人の「本件建物で生活していた」という主張に対し、実際の生活実態を確認するために、かなり細かく証拠が検討されています。

その中でも、決定的な材料の一つとなったのが、電気・ガス・水道の使用量でした。

相続開始から申告期限までの期間について、本件建物とA建物の使用量が比較されています。

電気使用量は、A建物が本件建物の約1.5〜3.5倍
ガス使用量は、A建物の方が常に2倍以上、多い月は約15倍
水道使用量も、A建物が本件建物の約4.5〜10.5倍

一方で、本件建物の水道は、ずっと2~4㎥程度で「基本料金の範囲内」にとどまり、ガスも多くの期間で0または1㎥という、ごくわずかな使用量でした。

裁決では、こうした客観的なデータから、「日常的な生活はA建物で営まれていた」と認定しています。

また、相続人は「一周忌までは来客が多かったので本件建物で生活していた」と説明しましたが、

本件建物とA建物が徒歩圏内であること
来客対応だけのために被相続人の生前の住まいに住み続ける必要性は乏しいこと
電気・ガス・水道の使用量から見ても、切れ目なく来客等があったとは認めがたいこと
などを理由に、その説明は採用されませんでした。

その結果、相続開始時から申告期限までの「生活の拠点」はA建物にあったと判断され、相続人は「被相続人の自宅に引き続き居住していた者」には当たらないとされました。

したがって、本件宅地は特定居住用宅地等に該当せず、小規模宅地等の特例の適用は認められない、という結論になっています。

想う相続税理士

住んでいた、と主張すれば、住んでいたことになる、という訳ではありませんので、ご注意を。