【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

債務及び葬式費用の負担者が確定していない場合の債務控除の注意点

相続税専門税理士の富山です。

今回は、相続税の申告において、債務及び葬式費用の実際の負担金額が確定していない場合の債務控除の注意点について、お話します。


相続税専門税理士に任せてスッキリ!
相続税専門税理士が直接対応
事前予約で土日祝日夜間対応可能
明確な料金体系+スピード対応
大手生命保険会社様で相続税・贈与税に関するセミナー講師の実績有(最近の実績:令和5年11月・令和5年12月・令和6年2月)

または はこちらから


相続税はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いて計算する

相続税の計算をする場合には、土地や預貯金などのプラスの財産の金額から、マイナスの財産(亡くなった方が残した借入金などの債務や葬式費用)の金額を差し引くことができます。

これを「債務控除」と言います。

相続税法(一部抜粋加工)
第13条 債務控除
相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第1条の3第1項第1号又は第2号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用

債務及び葬式費用の負担者が未確定の場合

相続税法基本通達(一部抜粋加工)
13-3 「その者の負担に属する部分の金額」の意義
法第13条第1項に規定する「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。)によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうのであるが、この場合において、これらの者の実際に負担する金額が確定していないときは民法第900条(法定相続分)から第902条《遺言による相続分の指定》までの規定による相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱う。ただし、共同相続人又は包括受遺者が当該相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担することとした場合の金額が相続又は遺贈により取得した財産の価額を超えることとなる場合において、その超える部分の金額を他の共同相続人又は包括受遺者の相続税の課税価格の計算上控除することとして申告があったときは、これを認める

相続税の申告における債務控除は、その各個別の債務及び葬式費用毎に、それを負担する方の財産の金額から控除します。

上記通達にあるとおり、各債務及び葬式費用を「誰が負担するのか」が決まっていない場合には、その債務及び葬式費用の金額を法定相続分等で按分し、その按分された金額を、各相続人等の方の財産の金額から控除します。

ただし、控除したらマイナスになってしまう場合には、マイナスを発生させずに、他の相続人等の財産の金額から控除することも認められています。

勝手に他の人のマイナスになる分を債務控除していい?

各債務及び葬式費用の負担者が確定していない、ということは、遺産分割協議がモメていて、申告についての話もできない状況にある可能性がありますが、そのような場合でも、上記の通達に従い、他の相続人等に発生するマイナス部分を、相続人間で話し合いもせず、勝手に自分の財産の金額から債務控除することができるのでしょうか?

出典:TAINS(J79-4-31)(一部抜粋加工)
相続税法基本通達13-3ただし書の定めにより、他の共同相続人の債務等超過分を請求人の課税価格から控除するためには、債務等超過分を控除することが可能な者の合意が必要であるとした事例(平成14年12月相続開始に係る相続税の更正の請求に対してされた更正処分・棄却・平22-03-15裁決)

請求人は、相続税法基本通達13-3ただし書は、債務等超過分を控除するに当たって共同相続人全員の合意が必要であるとは定めていないから、請求人の更正の請求における課税価格の計算上、債務等超過分を控除すべきである旨主張する。
しかしながら、当該通達は、共同相続人が法定相続分の割合に応じて負担することとした場合の債務及び葬式費用の金額が相続により取得した財産の価額を超えることとなる場合において、その債務等超過分を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上控除することとして申告があったときは、これを認める旨定めているところ、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合、それぞれが任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できるとすれば、債務等超過分が重複して控除されることも想定されることになり妥当でなく、当該通達がそのような事態まで許容する趣旨でないことは明らかであり、また、先に申告した者のみ控除が認められるとすることも公平性に欠け、妥当でない。
したがって、債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において、債務等超過分をどのように配分するかについての調整・合意がなされていることが前提になっていると解するのが相当であるところ、請求人は、債務等超過分を控除することが可能な他の共同相続人の合意を得ていないから、請求人の更正の請求における相続税の課税価格の計算上、他の共同相続人に生じた債務等超過分を控除することはできない。

相続人等の間で「誰がマイナス分を使わせてもらうのか」の話し合いがまとまっていないと(マイナス分についての債務控除の適用についての合意が形成されていないと)、そのマイナス分の債務控除はできません。

想う相続税理士

各債務及び葬式費用の負担者が確定している場合には、債務控除によりマイナスになった部分は切捨てになります(他の相続人等の財産の金額から控除できません)ので、モメていない相続の場合でも、債務控除には十分ご注意を。