【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

財産評価基本通達に基づく相続税評価額で土地や上場株式を個人間売買したらどうなる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、個人間で土地や上場株式を相続税評価額で売買した場合の税務上の取扱いについて、お話します。


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相続税・贈与税は財産評価基本通達に従って財産を評価して計算する

相続税の申告をする際、土地や上場株式を評価する場合には、原則として「財産評価基本通達」に従って評価額を計算します(あくまでも「通達」であり「法令」ではありませんが)。

この財産評価基本通達の「前文・説明文」には、次のように書かれています。

相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを下記のとおり定めたから、法令に別段の定めのあるもの及び別に通達するものを除き、昭和39年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産については、これにより取り扱われたい。

相続税や贈与税の申告をする場合の財産評価には使える、ということが分かります。

例えば、土地であれば「路線価方式」「倍率方式」で計算します。

上場株式なら、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する最終価格があるのですが、「①(相続であれば亡くなった日・贈与であれば贈与日の最終価格」「②亡くなった日・贈与日の属する月の毎日の最終価格の月平均額」「③その前の月の毎日の最終価格の月平均額」「④その前の前の月の毎日の最終価格の月平均額」の①②③④うち、最も低い価額で評価することができます。

では、相続や贈与ではなく、個人間の「売買」の場合には、この財産評価基本通達に従って計算した評価額を取引金額(売買金額)として採用してはいけないのでしょうか?

財産評価基本通達の「1評価の原則」には、「時価の意義」として次のように書かれています。

財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による

何だか個人間売買で使っても良さそうな気がします。

財産評価基本通達の金額で土地を売買して認められた事例

出典:TAINS(Z257-10763)(一部抜粋加工)
平成19年8月23日判決

「財産評価基本通達の定める画一的な評価方法によって評価した相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として譲渡した場合は、原則として、相続税法7条の『著しく低い価額』には該当しない」とされた事例があります。

相続税法第7条は、ザックリ言うと、時価よりも著しく安い金額で購入した場合、本来は「時価」を支払わなければ購入できないのに、それよりも安い金額の支払で済んでいるということは、その「(時価と購入金額との)差額分のトクをしている」ということになり、そのトクした分は、贈与があったことになるので、贈与税の課税対象になる、ということを定めています。

想う相続税理士秘書

相続税法7条は、時価より「著しく低い価額」の対価で財産の譲渡が行われた場合に課税することとしており、その反対解釈として、時価より単に「低い価額」の対価での譲渡の場合には課税しないものである。これは、前記(1)アで述べたように、そもそも、同条が、相続税の補完税としての贈与税の課税原因を贈与という法律行為に限定することによって、本来負担すべき相続税の多くの部分の負担を免れることにもなりかねない不都合を防止することを目的として設けられた規定であることに加え、一般に財産の時価を正確に把握することは必ずしも容易ではなく、しかも、同条の適用対象になる事例の多くを占める個人間の取引においては、常に経済合理性に従った対価の取決めが行われるとは限らないことを考慮し、租税負担の公平の見地からみて見逃すことのできない程度にまで時価との乖離が著しい低額による譲渡の場合に限って課税をすることにしたものであると解される。そうすると、同条にいう「著しく低い価額」の対価とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって行うべきである。
この点で特に問題となるのが相続税評価額の扱いである。本件土地のような市街地にある宅地の場合、既に述べたとおり、相続税評価額は、平成4年以降、時価とおおむね一致すると考えられる地価公示価格と同水準の価格の約80パーセントとされており、これは、土地の取引に携わる者にとっては周知の事実であると認められる。このように相続税評価額が時価より低い価額とされていることからすると、相続税評価額と同水準の価額を対価として土地の譲渡をすることは、その面だけからみれば経済合理性にかなったものとはいい難い。しかし、一方で、80パーセントという割合は、社会通念上、基準となる数値と比べて一般に著しく低い割合とはみられていないといえるし、課税当局が相続税評価額(路線価)を地価公示価格と同水準の価格の80パーセントを目途として定めることとした理由として、1年の間の地価の変動の可能性が挙げられていることは、一般に、地価が1年の間に20パーセント近く下落することもあり得るものと考えられていることを示すものである。そうすると、相続税評価額は、土地を取引するに当たり一つの指標となり得る金額であるというべきであり、これと同水準の価額を基準として土地の譲渡の対価を取り決めることに理由がないものということはできず、少なくとも、そのようにして定められた対価をもって経済合理性のないことが明らかな対価ということはできないというべきである。

以上の検討によれば、相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該土地の相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、「著しく低い価額」の対価による譲渡になり得ると解すべきである。もっとも、その例外の場合でも、さらに、当該対価と時価との開差が著しいか否かを個別に検討する必要があることはいうまでもない。

財産評価基本通達に従って計算した評価額で土地を個人間売買しても問題ない(贈与があったことにならない)場合もある、ということです(どのケースでも絶対大丈夫というワケではありません)。

上場株式の場合には財産評価基本通達に規定がある

上記の土地と同様、上場株式についても、個人間売買の取引金額を、相続税の申告の際に上場株式を評価する方法と同じやり方で計算していいのでしょうか?

実は、そうではありません。

財産評価基本通達(一部抜粋加工)
169 上場株式の評価
上場株式の評価は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次に掲げるところによる。
(1) (2)に該当しない上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所(国内の2以上の金融商品取引所に上場されている株式については、納税義務者が選択した金融商品取引所とする。(2)において同じ。)の公表する課税時期の最終価格によって評価する。ただし、その最終価格が課税時期の属する月以前3か月間の毎日の最終価格の各月ごとの平均額(以下「最終価格の月平均額」という。)のうち最も低い価額を超える場合には、その最も低い価額によって評価する。
(2) 負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額は、その株式が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価格によって評価する

上記の(1)は、既にお話した「①②③④うち、最も低い価額で評価することができます」の話です。

問題は太字部分です。

「課税時期の最終価格」「個人間の対価を伴う取引により取得した上場株式の価額」「評価する」と定められているのです。

ですから、
「①②③④うち、最も低い価額」が100円だとして、その金額で10万株の上場株式を個人間売買してしまうと、①が150円の場合、
(150円△100円)×10万株=500万円
の贈与があった、ということになり、贈与税が課税されてしまう、ということになります。

想う相続税理士

下記もご参照ください。

国税徴収法基本通達(一部抜粋加工)
第39条関係 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務
納税義務の成立
(著しく低い額の対価の判定)
7 法第39条の「著しく低い額の対価」によるものであるかどうかは、当該財産の種類、数量の多寡、時価と対価の差額の大小等を総合的に勘案して、社会通念上、通常の取引に比べ著しく低い額の対価であるかどうかによって判定し(平成2.2.15広島地判、平成13.11.9福岡高判参照)、次のことに留意する
(1) 一般に時価が明確な財産(上場株式、社債等)については、対価が時価より低廉な場合には、その差額が比較的僅少であっても、「著しく低い額」と判定すべき場合があること。