【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税専門税理士が見た令和5年度税制改正大綱における相続時精算課税制度の見直し

相続税専門税理士の富山です。

今回は、昨日決定した令和5年度税制改正大綱の資産課税の分野のうち、相続時精算課税制度の見直しの部分について、お話します。

※現時点での予想が含まれていますので、予めご了承ください。

令和5年度税制改正大綱を読んでみると・・・。

(令和5年度税制改正大綱・一部抜粋加工)

相続時精算課税適用者

想う相続税理士

相続時精算課税制度による贈与により財産を「渡された方」です。

特定贈与者
相続時精算課税制度による贈与により財産を「渡した方」です。

想う相続税理士秘書

から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとするとともに、

想う相続税理士

贈与税は、ザックリ言うと「暦年課税」「相続時精算課税」のどちらかを選ぶことになっていて(相続時精算課税が選べない場合もありますが)、暦年課税には110万円の基礎控除があります。

国税庁タックスアンサーNo.4402 贈与税がかかる場合(一部抜粋加工)
暦年課税
贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。したがって、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です。)。

とあるように、暦年課税なら少額の贈与については贈与税がかからないのですが、

想う相続税理士秘書

国税庁タックスアンサーNo.4103 相続時精算課税の選択(一部抜粋加工)
なお、この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降すべてこの制度が適用され、「暦年課税」へ変更することはできません。

とあるように、相続時精算課税を選択すると、少額の贈与でもすべて相続時精算課税制度の対象贈与となり、また、相続時精算課税制度のポイントは、その名のとおり「相続」「時」「課税」「精算」するというところにあるため、相続時精算課税を選択した贈与については、どんなに少額でもすべて相続税の課税対象になる(通常の相続財産の金額に加算される)のですが、

想う相続税理士秘書

特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる当該特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除をした後の残額とする。
とあるとおり、「110万円の基礎控除以下の部分を控除した後の残額を加算する」ため、その部分は、結果的に相続税の課税対象にならない、ということになります。

想う相続税理士秘書

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用する。

想う相続税理士

来年中の贈与については、現行通りの取扱いとなります。

改正後の贈与税の申告方法

「現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できる」の意味が、「相続時精算課税制度の中に暦年課税の基礎控除と同じ性質(110万円以下なら申告不要)の基礎控除が新たにできる」という意味であれば、改正後の申告の仕方は次のようになるものと思われます。

(1)その年において、その特定贈与者(Aさん)からしか贈与により財産を渡されておらず、その金額が110万円以下の場合(例えば90万円の場合)

基礎控除110万円以下であるため、贈与税の申告は不要になるものと思われます。

(2)その年において、その特定贈与者(Aさん)からしか贈与により財産を渡されておらず、その金額が110万円を超えている場合(例えば150万円の場合)

基礎控除110万円を超える40万円部分は、相続時精算課税による贈与であるため、2,500万円の特別控除の未使用分があれば、それを控除した後の金額に対して20%の贈与税課税(贈与税の申告が必要、贈与税ゼロでも)になるものと思われます。

(3)上記の(1)のパターンで、他の贈与者(Bさん)から暦年課税による贈与により財産を渡されている場合(例えばその金額が60万円の場合)

「現行の基礎控除とは『別途』、課税価格から基礎控除110万円を控除できる」とありますので、
90万円≦110万円 ∴贈与税の申告は不要
60万円≦110万円 ∴贈与税の申告は不要
(つまり、「90万円+60万円>110万円 ∴贈与税の申告は必要」とはならない)
になるものと思われます。

相続時精算課税制度の注意点(これは現行税制の話です)

相続税法(一部抜粋加工)
第21条の12 相続時精算課税に係る贈与税の特別控除
相続時精算課税適用者がその年中において特定贈与者からの贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、特定贈与者ごとの贈与税の課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうちいずれか低い金額を控除する。
一 2,500万円(既にこの条の規定の適用を受けて控除した金額がある場合には、その金額の合計額を控除した残額)
二 特定贈与者ごとの贈与税の課税価格
2 前項の規定は、期限内申告書に同項の規定により控除を受ける金額、既に同項の規定の適用を受けて控除した金額がある場合の控除した金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する

とあるように、相続時精算課税による贈与に2,500万円の特別控除を適用するためには、期限内に贈与税の申告をしなければなりません。

申告をしなければ、

特別控除2,500万円は使えない=その金額に丸々20%課税される
無申告加算税や延滞税などが課税されるリスクが発生する
ということになりますので、注意が必要です。

現行の暦年課税による贈与の場合には、うっかり申告を忘れても、基礎控除額110万円は適用できます。

想う相続税理士秘書

想う相続税理士

上記の読みが間違っていないとすれば(「現行の基礎控除とは別途、課税価格から基礎控除110万円を控除できる」の意味が、「相続時精算課税制度の中に暦年課税の基礎控除と同じ性質(110万円以下なら申告不要)の基礎控除が新たにできる」という意味であれば)、贈与税について詳しくない方が、うっかり申告を忘れた場合でも、どんな贈与でも年間110万円まではセーフ、ということになります(それがこの改正の趣旨と思われます)。

ただし、上記(3)のような場合には、合計で年間220万円の基礎控除が使えるということになり、実質的に暦年課税の基礎控除が2倍になる感じになります(ホント?)。

また、この基礎控除の部分は、相続税の課税価格に加算されない、とされていますが、これが生前贈与加算の規定に引っかかる相続開始前3年(改正後は7年)以内の贈与だったとしても、相続税の課税価格に加算されないのか(そうだとしたら、暦年課税で贈与するより、相続時精算課税で贈与した方が断然有利になっちゃいます)、いやいや、それだとおかしい(「相続」「時」「精算」「課税」で贈与した財産が相続時に課税を受けて精算されないで、暦年課税だけが課税を受けるなんてオカシイ!)ということであれば、やっぱり加算対象になるのか(相続時精算課税制度上では加算しないけど、生前贈与加算の規定上では加算するのか)というところも気になります。