【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続税評価額と同程度かそれ以上の売買なら原則として著しく低い価額ではないとした事例

相続税専門税理士の富山です。

今回は、親族からの「相続税評価額と同額」での土地の購入が、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当するかが争われた判決事例について、お話します。

出典:TAINS(Z257-10763)(一部抜粋加工)
平成19年8月23日判決


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「著しく低い価額」で購入すると贈与税が課税される

土地や建物は路線価や固定資産税評価額で売買していい? 相続税評価額よりも高い金額で売買すればみなし贈与で課税されない?

上記の記事でもお話したとおり、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」(ザックリ言うと、「メチャクチャ」安く買った場合)には、その「著しく低い価額の対価」「時価」との差額の分だけ「メチャクチャ」トクをしている、ということになりますので、その差額部分に対して贈与税が課税されます。

その対価(購入金額)が「著しく低い価額の対価」かどうか、「メチャクチャ」安いか、がポイントとなります。

また、上記の記事でも触れた「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」の通達は、制定された当時と現在では状況が異なっていたりはするものの、廃止された訳ではありません(税務署の職員の方がそれを根拠に「著しく低い価額の対価」だと主張してくる可能性があります)。

(それらを踏まえた上で今回の記事を読んでいただきたいのですが)今回お話する判決では、「相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として土地の譲渡が行われた場合は、原則として『著しい低い価額』の対価による譲渡ということはできず、例外として、何らかの事情により当該相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、「著しく低い価額」の対価による譲渡になり得ると解すべきである」とされました。

「著しく」とは「見逃すことのできない程度」

相続税法7条は、時価より「著しく低い価額」の対価で財産の譲渡が行われた場合に課税することとしており、その反対解釈として、時価より単に「低い価額」の対価での譲渡の場合には課税しないものである。これは、そもそも、同条が、相続税の補完税としての贈与税の課税原因を贈与という法律行為に限定することによって、本来負担すべき相続税の多くの部分の負担を免れることにもなりかねない不都合を防止することを目的として設けられた規定であることに加え、一般に財産の時価を正確に把握することは必ずしも容易ではなく、しかも、同条の適用対象になる事例の多くを占める個人間の取引においては、常に経済合理性に従った対価の取決めが行われるとは限らないことを考慮し、租税負担の公平の見地からみて見逃すことのできない程度にまで時価との乖離が著しい低額による譲渡の場合に限って課税をすることにしたものであると解される。

利益を追求する会社間(同族会社間を除く)の取引であれば、理論的には、お互いが損をしないように価格が形成されますが、自然人である個人間の場合には、その価格に当然ブレが生じます(時価取引ではないケースも当然出てきます)。

また、時価で売買すべきと言っても、時価を計算するのは難しい場合もありますから、いっそのこと、評価方法が法律で確立している相続税評価額で売買する、というのはどうなんでしょうか?

この点で特に問題となるのが相続税評価額の扱いである。本件土地のような市街地にある宅地の場合、既に述べたとおり、相続税評価額は、平成4年以降、時価とおおむね一致すると考えられる地価公示価格と同水準の価格の約80パーセントとされており、これは、土地の取引に携わる者にとっては周知の事実であると認められる。このように相続税評価額が時価より低い価額とされていることからすると、相続税評価額と同水準の価額を対価として土地の譲渡をすることは、その面だけからみれば経済合理性にかなったものとはいい難い

「相続税評価額」は、あくまでも「時価」ではありません。

相続税評価額以上であれば原則「著しく低い価額」ではない

しかし、一方で、80パーセントという割合は、社会通念上、基準となる数値と比べて一般に著しく低い割合とはみられていないといえるし、課税当局が相続税評価額(路線価)を地価公示価格と同水準の価格の80パーセントを目途として定めることとした理由として、1年の間の地価の変動の可能性が挙げられていることは、一般に、地価が1年の間に20パーセント近く下落することもあり得るものと考えられていることを示すものである。そうすると、相続税評価額は、土地を取引するに当たり一つの指標となり得る金額であるというべきであり、これと同水準の価額を基準として土地の譲渡の対価を取り決めることに理由がないものということはできず、少なくとも、そのようにして定められた対価をもって経済合理性のないことが明らかな対価ということはできないというべきである。

公示価格・基準地標準価格をベースに時価を算出する場合、理論的には時点のズレを修正する必要があります。

公示価格・基準地標準価格の基準となる日(1/1・7/1)と、土地を売買した日は、同日に売買した場合を除き、一致しないからです。

相続税評価額が、地価の変動(厳密にはその可能性)を織り込んでいるのであれば、そのような時点修正を加味した数字と言え、それは取引金額の参考になる金額と言える、少なくとも、おかしな金額ではない、ということです。

想う相続税理士

今回の判決に従って判断する場合でも、「何らかの事情により当該相続税評価額が時価の80パーセントよりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合」には、「著しく低い価額の対価」該当のリスクが発生しますので、ご注意を。