【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

狙った節税ができなかった遺産分割はやり直しできる?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、申告期限後にやり直した遺産分割協議が認められた事例について、お話します。


相続税専門税理士に任せてスッキリ!
相続税専門税理士が直接対応
事前予約で土日祝日夜間対応可能
明確な料金体系+スピード対応
大手生命保険会社様で相続税・贈与税に関するセミナー講師の実績有(最近の実績:令和5年11月・令和5年12月・令和6年2月)

または はこちらから


同族会社の株式の評価額は誰が相続するかで大きく変わる

全国の各証券取引所に上場されている株式及び気配相場等のある株式以外の株式を、相続税の世界では「取引相場のない株式」と言います。

親族で経営しているような同族会社の株式がこれに該当します。

相続があった場合、証券取引所に上場されている株式は、頻繁な売り買いにより値段(株価)が付いていますので、その株価を元に計算します。

しかし、同族会社の株式には、そのような相場がありません。

そこで、計算により株価を算出するのですが、その際、同族株主等が取得した場合には、「原則的評価方式」という方法で評価し、同族株主等以外の方が取得した場合には、「特例的評価方式(配当還元方式)」という方法で評価します。

つまり、同じ株式でも、誰が取得するかで相続税評価額が全く違ってくるのです。

通常、「特例的評価方式(配当還元方式)」の方が相続税評価額が安くなります。

想う相続税理士秘書

遺産分割協議のやり直しはできる?

遺産分割協議のやり直しは、当初の遺産分割を相続人全員の同意により解除(合意解除)すれば可能です。

しかし、これは民法上の話であり、税法上は贈与とみなされるリスクがあります。

相続税法基本通達(一部抜粋加工)
19の2-8 分割の意義
当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する

ザックリ言うと、通常、一度決めた遺産分けはくつがえせず、やり直したとしても、そのやり直しによって財産を取得した方は、最初の遺産分けで財産を取得した方から贈与により取得した(相続で取得した財産を贈与でもらった)、と税務上は考えるのです。

ところが、安い評価額となる「特例的評価方式(配当還元方式)」の適用を狙った遺産分割協議をしたけれども、その遺産分けの内容では適用できないことに気付き、申告期限後に遺産分割協議をやり直したところ、最終的に認められた事例があります。

分割内容自体の錯誤ではなく課税負担の錯誤

出典:TAINS(Z259-11151)
遺産分割に基づき期限内申告をしたが、錯誤により分割をやり直した場合において、更正の請求をすることが認められた事例

(一部加工)
本件における納税者(原告)ら相続人たちは、税理士の助言に基づき、J社株式を配当還元方式で評価できるように遺産分割して、期限内に相続税の申告をしたつもりでしたが、この遺産分割に基づくと、配当還元方式では評価できないことがわかりました。そこで納税者らは申告期限後に2回目の遺産分割を行い、税務署長に対し更正の請求をしたところ、課税庁は、相続税の計算は1回目の遺産分割に従うべきであり、S社株式の評価は類似業種比準方式によるべきである旨の更正処分等を行ったため、納税者が処分の取消しを求めたのが本件です。
争点は、相続税の申告をした後に、課税負担を理由とする遺産分割の錯誤無効を主張し、新たな遺産分割に基づく更正の請求ができるかです。
地裁は、課税負担の錯誤に関しては、当該遺産分割が無効であることを主張することはできないのが原則であるが、更正請求期間内にされた更正の請求を認めても弊害が生ずるおそれがない特段の事情がある場合には、例外的に認められる場合があると述べた上で、本事例においては認めるべき特段の事情がある場合に該当するとして、納税者の主張を認容しました。本件は地裁で確定しています。

(一部加工)
分割内容自体の錯誤と異なり、課税負担の錯誤に関しては、それが要素の錯誤に該当する場合であっても、申告納税制度の趣旨・構造及び税法上の信義則に照らすと、申告者は、法定申告期限後は、課税庁に対し、原則として、課税負担またはその前提事項の錯誤を理由として当該遺産分割が無効であることを主張することはできず、例外的にその主張が許されるのは、分割内容自体の錯誤との権衡等にも照らし、①申告者が、更正請求期間内に、かつ、課税庁の調査時の指摘、修正申告の勧奨、更正処分等を受ける前に、自ら誤信に気付いて、更正の請求をし、②更正請求期間内に、新たな遺産分割の合意による分割内容の変更をして、当初の遺産分割の経済的成果を完全に消失させており、かつ、③その分割内容の変更がやむを得ない事情により誤信の内容を是正する一回的なものであると認められる場合のように、更正請求期間内にされた更正の請求においてその主張を認めても弊害が生ずるおそれがなく、申告納税制度の趣旨・構造及び租税法上の信義則に反するとはいえないと認めるべき特段の事情がある場合に限られるものと解するのが相当である。

想う相続税理士

この事例では、上記の③に該当するものとされました。