【毎日更新】相続税専門税理士ブログ

相続後に同族会社の株式を高値で売却したらタワマンみたいに総則6項で否認される?

相続税専門税理士の富山です。

今回は、同族会社の株式を時価の約10分の1の金額で評価して相続税の申告をした事例について、お話します。


相続税専門税理士に任せてスッキリ!
相続税専門税理士が直接対応
事前予約で土日祝日夜間対応可能
明確な料金体系+スピード対応
大手生命保険会社様で相続税・贈与税に関するセミナー講師の実績有(最近の実績:令和5年11月・令和5年12月・令和6年2月)

または はこちらから


タワマンは時価よりも相続税評価額が低いから節税になった

現金を1億円持っていると、その1億円に対して相続税が課税されます。

でも、その1億円でタワマンを購入し、その後、相続が発生した場合、そのタワマンの財産評価基本通達により評価した相続税評価額が4,000万円だったら、その4,000万円に対して相続税が課税されます。

相続後にそのタワマンを売却したら、1億円が手に入ります。

でも、相続税は4,000万円に対する相続税を納付したままで済みます(1億円が手元にあるのに)。

令和4年4月19日の最高裁の判決では、この仕組みを利用した相続税の申告(タワマンの通達評価額約3億3,370万円・借入により相続税0円)に対して、「節税目的で取得した不動産の評価について、通達評価によると実質的な租税負担の公平に反する事情がある場合は、評価通達6を適用する(財産評価基本通達で定められた方法によらない・税務署は鑑定評価額12億7,300万円で更正処分)合理的な理由がある」と判断されました。

タワマンについては、「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)により、令和6年以後の相続から評価方法が変わっています(評価額が引き上げられます)。

相続税専門税理士㊙カード36【タワマン節税防止通達制定の背景】 相続税専門税理士㊙カード41【タワマン節税防止通達】 相続税専門税理士㊙カード56【タワマン節税防止通達Q&A①】

相続後に高値で売却しても通達評価が認められた事例

次のお話は、タワマンではなく、同族会社の株式です。

出典:TAINS(Z888-2556)(一部抜粋加工)
令和6年1月18日判決

上記と同様に更正処分等を受けたのですが、

1株当たりの
財産評価基本通達による評価額が8,186円
S国税局長が国税庁長官に対して本件相続株式の評価については評価通達6に基づきたい旨上申した際に示した株式会社■■■■■■■作成による株式価値算定報告書の評価額が80,373円
生前の段階でV社との間で基本合意していた譲渡予定価格が105,068円(実際譲渡価格)
でした。

上記のタワマンよりも金額の差がありますが、「通達評価額によって評価すべき」とし、「評価通達6を適用して本件算定報告額を用いて本件相続株式を評価した各更正処分等は、最高裁令和4年判決(上記のタワマン最高裁判決)の示した判断枠組みに照らし、平等原則という観点から違法」とされました。

本件通達評価額と本件算定報告額との間に大きなかい離があるということのみをもって直ちに上記事情(評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情=特段の事情)があるということはできない

納税者側から見ると、相続税の申告前に、相続後に全部又は一部の相続財産を評価通達の定める方法による評価額とは異なる額で売却した場合において、上記評価額に従って算出した額で申告をすべきかどうか、いかなる場合にこれと異なる額で申告をすべきか、異なる額で申告をするとしていかなる額で申告すべきかが一切明らかでないこととなるし、同様に、相続税申告後に相続財産を売却した場合に、その売却額に従って算出した額で修正申告をすべきかどうかも明らかでない。また、納税者側が、評価通達の定める方法による評価額に依って申告をした場合には、事後的に課税庁の判断で上記評価額とも売却額とも異なる額を前提とした予測可能性のない更正処分を受ける危険を負わなければならない。評価通達6という極めて抽象的な規定を除けば、法令にも評価通達その他の通達にもかかる事態が具体的に想定されているとは解し難い点も併せて考えれば、納税者側が租税回避行為をしていたような場合は別として、納税者がかかる不安定な地位に置かれ、不利益を受けるのは、申告納税制度や評価通達の趣旨に照らし、強い疑問が残るものといわざるを得ない

相続財産となるべき株式売却に向けた交渉が相続開始前から進行しており、相続開始後に実際に相続開始前に合意されていた価格で売却することができ、かつ、当該価格が評価通達の定める方法による評価額を著しく超えていたという事実をもってしても、直ちに納税者側に不当ないし不公平な利得があるという評価をすることは相当ではなく

本件基本合意が本件相続の後も相続人らとの間でそのまま存続するか否か自体、相続開始日においては不透明な状况であったといわざるを得ない

本件基本合意が譲渡予定価格等について被相続人及びV社を法的に拘束するものではないとしていた点や被相続人においてO社株式の全部を取りまとめ又は買い集めることが前提条件とされていた点などに鑑みれば、譲渡予定価格による本件相続株式の売買代金債権を相続財産と同視することも困難

したがって、本件相続の開始前からO社株式の譲渡予定価格が事実上合意されていたという事情をもって、特段の事情(の一部)ということはできない

租税回避目的及びそれに基づく積極的な行為があるとダメ

この判決では、「こういう場合はダメ」とも示しています。

本件においては、最高裁令和4年判決の事案とは異なり、本件被相続人及び本件相続人らが相続税その他の租税回避の目的でO社株式の売却を行った(又は行おうとした)とは認められない

相続税を軽減するために被相続人の生前に多額の借金をした上であらかじめ不動産などを購入して評価通達の定める方法における現金と不動産など他の財産に係る評価額の差異を利用する相続税回避行為をしているような場合でない限り、当該相続対象財産を評価通達の定める方法による評価額を超える価格で評価して課税しなければ相続開始後に相続財産の売却をしなかった又はすることができなかった他の納税者と比較してその租税負担に看過し難い不均衡があるとまでいうことは困難である

評価通達6を納税者の不利に適用するに当たっては、上記オで説示したような不均衡や不利益等を納税者に甘受させるに足りる程度の一定の納税者側の事情が必要と解すベきである。例えば、被相続人の生前に実質的に売却の合意が整っており、かつ、売却手続を完了することができたにもかかわらず、相続税の負担を回避する目的をもって、他に合理的な理由もなく、殊更売却手続を相続開始後まで遅らせたり、売却時期を被相続人の死後に設定しておいたりしたなどの場合であるとか、最高裁令和4年判決の事例のように、納税者側が、それがなかった場合と比較して相続税額が相当程度軽減される効果を持つ多額の借入れやそれによる不動産等の購入といった積極的な行為を相続開始前にしていたという程度の事情が特段の事情として必要なものと解される

想う相続税理士

下記の記事もご参照ください。
相続後の売却金額をベースにマンションの相続税評価額を計算していいとされた事例